下水道コラムvol.7~紛らわしい下水道用語(下水処理場職員編)~

今回は、下水処理場に勤務するようになって筆者が触れた紛らわしい下水道用語についてご紹介します。

これは工具の話ですが、現場ではウォーターポンププライヤーのことをカラスと呼んだり、
立ち入り禁止の柵をウマ、作業台をウマやペガサスって呼ぶ職人さんもいますね。
そのほか、ネコにキリン、モンキーなど・・・

一説では厳しい現場のなかで、動物の名前を使うことで和ませる効果があるとか無いとか・・・
そう言われると、厳つい親方が「ネコ持ってきて!!」なんて叫んでいる姿はなんだかホッコリする気がしますね。

下水道に限らず、どこの現場にも専門用語みたいな用語があり、
働くうちに当たり前の単語になっていくのですが、最初の頃は初めて聞く単語ばかりで戸惑うものです。

先輩職員と新人職員のあるある会話も載せていますので、
今回のコラムが新人下水道マンの参考になれば幸いです。

水処理編

【初沈】【終沈】

先輩
先輩

午後から1系を通水するから、
【初沈】と【終沈】のドレンバルブ確認しといてね。

しょちん・・・?しゅうちん・・・?

新人
新人

まずは基本的なところから。
【初沈(しょちん)】【終沈(しゅうちん)】と言ってピンときますでしょうか?

基本的な下水処理場には、【最初沈殿池】と【最終沈殿池】があります。
※オキシデーションディッチ法のように、最初沈殿池を設置しない処理方式もある。

読んで字のごとくですが、頻繁に使い、地味に長い単語なので大抵の場合は、
【初沈】【終沈】と略して呼んでいます。

【反応タンク】【曝気槽】【エアレーションタンク(AT)】etc

先輩A
先輩A

1系反応タンクの水質計器、消耗品が減ってきたから手配しておいて。

先輩B
先輩B

2系曝気槽の曝気率を変更するよ。

先輩C
先輩C

3系エアレーションタンクで蛍光灯切れてたから交換しておいてくれるかな?

どこが何のこと!?

新人
新人

他にも反応槽と言われる場合も・・・。全て同じ【反応タンク】を指しています。
時代の流れに合わせて呼び方が変わるうちに世代によって様々な呼び方が生まれたようです。

日本下水道協会が発行している下水道用語集では1988年にはエアレーションタンクでしたが、2000年の改訂で反応タンクが加わりました。

さらに反応タンクは、あえて曝気をしない【嫌気槽】や【無酸素槽】、曝気をする【好気槽】と細分化されています。

嫌気槽

反応タンクは間仕切りが入っていて、いくつかの槽に分かれています。
嫌気槽は最初沈殿池を出た汚水と最終沈殿池で沈殿した活性汚泥(返送汚泥)が混ざる反応タンクの一つ目の槽です。

あえて曝気をしないことで、微生物が活発に活動しない状態となり、エサである汚れを食べなくなります。
すると、微生物はリンを吐き出し(脱リン)、お腹が空いた状態になります。

微生物を再利用するために、あえて曝気せずにお腹を空かせるための槽が嫌気槽です。

無酸素槽

反応タンクの中間に位置する槽で、後半の好気槽からポンプ等で汚水を戻して処理しています。
好気槽で発生する硝酸を、無酸素状態で活発になる微生物を使って除去するための槽です。

専用の設備が必要になり、嫌気槽+返送汚泥の組み合わせでも擬似的に無酸素槽の役割を果たせるため
無酸素槽が無い処理場も多数あります。

下水道公社で管理する4つの処理場は嫌気槽と好気槽の組み合わせで運用されています。

好気槽

大量の空気を槽内に送り、微生物を活性化させます。
嫌気槽でお腹の空いた微生物は下水中の汚れを食べて大きくなり、綿状の塊となって沈みやすくなります。

硝化菌と呼ばれる好気性の微生物がアンモニアを食べて硝酸を作ります。この硝酸は嫌気槽や無酸素槽で除去され、窒素に変わります。

嫌気槽でお腹の空いた微生物は吐き出した以上のリンを食べてくれるため、結果的に下水中のリンが除去されます。

反応タンク

汚泥処理編

【重力濃縮】【シックナー】

先輩A
先輩A

今度重力(濃縮)の№2汚泥引抜きポンプを整備するよ。

先輩B
先輩B

シックナーの界面が高いから1池増やすよ。

シックナーって何ですか!?

新人
新人

どちらも同じ重力濃縮設備を指します。

反応タンク同様に時代の流れで呼び方が変わっており、
年配の方がよくシックナーと言っている気がします。

濃縮設備

【ケーキ】

先輩
先輩

分析用の【ケーキ】は届いたかな?

誰かのお祝いですか?

新人
新人

残念ながら食べられるケーキではありません。
下水処理場でケーキという場合は99%こちらを指し、正式名称は【脱水ケーキ】や【汚泥ケーキ】と呼ばれています。

一般的にケーキというとお菓子のケーキをイメージしますが、単語の意味を調べると『塊』という意味があるようです。
原子炉の燃料にはイエローケーキと呼ばれるウランの加工物が使われていたりしますね。

下水処理場の【ケーキ】は脱水され、焼却炉に投入する直前の粘土状になった汚泥のことを指します。
くれぐれも食べないように。

水質編

【生】【初沈引抜き汚泥】

先輩
先輩

生取ってきてくれる?

生入りまーす!

当然、生ビールを持って行くと怒られてしまいます。

下水処理場で【生】というのは【初沈引抜き汚泥】の事を指します。
少しだけ丁寧に言うと【生汚泥】とも。

【生汚泥】とは、汚泥処理の工程を経ていない汚泥のことを指しています。

【生汚泥(初沈引抜き汚泥)】は汚泥処理に送られ、重力濃縮を経て【初沈濃縮汚泥】に名前を変えます。
そして、【余剰汚泥】と混ぜられて【混合汚泥】に呼び方が変わります。
さらに、脱水することで【(脱水)ケーキ】、焼却すると【焼却灰】になり、
搬出の方法によって【乾灰】や【加湿灰】とも・・・。とても紛らわしいですね。