下水道コラムvol.10~処理場で使われる薬品~

毎日休むことなく動いている下水処理場では、様々な薬品を使っています。

こう聞くと、さも下水処理を薬品を使用してきれいにしているようなイメージを持たれるかもしれませんが、実際に使用している薬品は脱臭や処理促進など、補助的な役割の薬品です。決して薬品を入れて水が透明になるようなものではありません。

ここでは少しマニアックな下水処理場で使われる薬品について解説します。

次亜塩素酸ナトリウム溶液(別名:次亜塩素酸ソーダ、塩素)

次亜塩素酸ナトリウム溶液貯蔵タンク

次亜塩素酸ナトリウム溶液は処理場では「次亜」「ジアソー」などと呼ばれています。

よく学校のプールで「塩素」といいますが、これは処理場で使う次亜塩素酸ナトリウム溶液と同じものです。
また、蛇口から出る水道水にも殺菌のために使用されています。

つまり、次亜塩素酸ナトリウム溶液とは殺菌を目的に使用され、最終沈殿池通過後の水に直接注入されます。
よく勘違いされますが、次亜塩素酸ナトリウム溶液の注入は滅菌(菌がゼロになること)を目指したものではなく、人体に有害な大腸菌などの細菌を除去し、安全性を高めるものです。

処理場ではこの次亜塩素酸ナトリウム溶液の注入率を変更し、適切な水質管理をしています。
少なすぎるのは問題ですが、多く注入してしまうと放流先の川や海の生き物が強い殺菌用で死んでしまうからです。

水酸化ナトリウム溶液(別名:苛性ソーダ)

20%水酸化ナトリウム溶液貯蔵タンク

処理場で一番臭いのもととなる物質は何でしょうか。

答えは硫化水素です。硫化水素は卵の腐ったような臭いのする物質で、腐敗などで容易に生じる有機分由来の物質です。
温泉などでこの臭いを嗅いだことのある方も多いかと思います。

また、硫化水素が発生するとpHが下がります。箱根の温泉は硫化水素を含んでおり、pHが低くこのことから「酸性温泉」「酸性泉」「酸性湯」などと呼ばれます。

処理場の汚泥処理工程では脱臭装置や焼却炉で使う水にpH計がついており、処理水が酸化傾向になったときにアルカリ性の水酸化ナトリウム溶液を添加してpHを正常な値に戻すことで、硫化水素発生や焼却炉排水の酸性化を防ぎます。

通常は20%濃度の溶液が使用されます。ちなみに処理場では「苛性ソーダ」という俗称が一般的です。

ポリ硫酸第二鉄溶液

ポリ硫酸第二鉄溶液貯蔵タンク

ポリ硫酸第二鉄溶液は比較的近年になり処理場で使用されるようになった薬品であり、水酸化ナトリウム溶液と同様に脱臭目的で使用されます。

処理場では重力濃縮槽に注入され、硫化水素の発生を抑制しています。硫化水素に対する脱臭能力は同じ量の水酸化ナトリウム溶液より高いですが、水酸化ナトリウム溶液とは使用用途によって使い分けされています。

また、強い凝集作用もあるいため、重力濃縮槽の汚泥に沈降作用も付加します。神奈川県下水道公社では使用していませんが、この凝集作用を利用して濃縮や脱水設備に使用される場合もあります。

活性炭

活性炭を使用した脱臭装置

活性炭という言葉は現在ではメジャーになってきたと思います。冷蔵庫や靴などの脱臭剤として広く使われています。
処理場でも同様であり、臭気の強い空気を活性炭に通過させ、脱臭を行います。

ところで、この活性炭はどのような仕組みで臭気を取り除いてるのでしょうか。

活性炭は石炭やヤシ殻を原料とし、見た目は黒い炭です。(より脱臭能力を向上させるために薬品が添着される場合もあります。)
この炭には小さな穴が無数に開いており、空気との接触面積が大きくとれる構造となっています。

さらに、活性炭には物質をくっつける吸着作用があり、これにより臭気のみを吸着させ、空気を浄化している訳です。

高分子凝集剤

高分子凝集剤貯蔵コンテナ

高分子凝集剤は濃縮・脱水設備で使用され、水の中でばらばらの汚泥をくっつけることで大きな塊(フロック)にする作用があります。

幼児用のおむつで「吸水性ポリマー」と呼ばれるものを聞いたことがあるかと思います。これも高分子凝集剤の一種であり、おしっこやウンチを固める作用により、おむつが染み込まないようになっています。

また、高分子凝集剤は種類が膨大であり、イオン性でも「カチオン」「アニオン」、分子量も数百万~数千万、構造も「直鎖構造」「架橋構造」など様々です。その処理施設や汚泥の状況にあったものを使っていますが、半ばオーダーメイドともいえるでしょう。
非常に奥が深い薬品です。

そのほかの薬品

脱臭剤
消泡剤

そのほかにも処理場では様々な薬品が使われています。沈砂池設備で出たゴミの臭いを防ぐ脱臭剤、洗剤が流入してきた際に反応タンクでの泡立ちを伏せぐ消泡剤等があります。

こういった薬品は時代によりいろいろなものが使用されています。今後下水処理技術が進歩していくことで薬品の使用が必要なくなったり、新たな薬品を使用することもあると思います。また、今回の例はあくまで神奈川県下水道公社の例であり、ほかの処理場ではまた異なった薬品が使用されています。

マニアックな内容でしたが、処理場で用いる薬品を使用することで下水処理の理解が深まると思います。